ビフォア・サンセット [本]
「過去と向き合わずに済めば、思い出はすばらしいのに」
作家として成功し、パリを訪れたジェシー。彼はサイン会の会場となった書店の片隅にセリーヌの姿を見つける。9年前、14時間を共に過ごし、その半年後に再会することを約束したものの約束を果たせなかった二人。ニューヨーク行きの飛行機が発つまでの85分、9年ぶりに再会した二人は失われた時間を取り戻すように語り始める ―
『ビフォア・サンセット』です。
二人の会話から明らかにされる9年前のあの日の真実と現在。
9年前のあの日、二人が再会できていたら・・・
人生って、そんな偶然(必然?)が織り成すストーリーなのかもしれませんね。
ノベライズ本なので、夕暮れの時間にさらっと読むことができるでしょう。
映画の方も観てみたくなること必至です。
映画は2005年に公開。
映画館の隣の席に見た横顔は9年前と同じものだったのか、それとも・・・
物語の主人公は、あなたなのかもしれませんね。
センセイの鞄 [本]
「ツキコさん、ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょう」
数年前、駅前の一杯飲み屋で再会した“センセイ”とわたし。それ以来、顔をあわせるたびに二人で飲む仲に。歳の離れている二人ではあったが、季節の移り変わりとともに二人の心の中でお互いの存在が大きくなってゆく ―
川上弘美さんの谷崎潤一郎賞受賞作品 『センセイの鞄』です。
真面目でお茶目なセンセイとお酌の下手なわたし。
二人の近すぎず遠すぎずの距離感、先生と生徒のようであり友達のようでもある会話がとっても魅力的。ずっと聞いて(読んで)いたくなります。
そして、なんと言っても二人の通う居酒屋での様子が美味しそうなこと!
お酒に、まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、塩らっきょう、枝豆、焼き茄子、たこわさ、湯豆腐・・・
読んでいれば、本の中から美味しそうな匂いが漂ってくるようで、寝る前にベッドで読むにはなかなかキビシイものがあるかもしれません。
お酒は飲めないという方も、その雰囲気にほろ酔い気分を味わうことができるでしょう。飲める方は・・・飲みすぎに要注意!です。
ゆったりと穏やかな大人のラブ・ストーリー。
秋にはこんなラブ・ストーリーもいいですね。
ブラームスはお好き [本]
あなたが恋愛をとり逃がしたことにたいして告訴します。
ポール、39歳。長年付き合った年上のロジェという恋人がいるが、浮気性の彼の自由さに孤独を感じていた。そんなとき出会った若く美しい青年シモン。ポールに夢中になるシモン。そんな彼に彼女もいつしか心を許すようになるが、二人には15という年の差があった・・・
フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』です。
9月も半ばを過ぎました。
遅ればせながら、私のブログでも「ブラームス解禁」です。
ともすれば、午後1時30分スタートのドラマになってしまいそうな内容なのですが、思い浮かぶのは洒落たフランス映画。舞台がパリというだけじゃなくて、サガンの心理描写、登場人物のセリフに雰囲気があるんですよね。
恋愛に年の差は関係ないと言うけれど・・・
もし、あなたがポールだったら?
長年付き合っている彼女がいる未婚の男性は、この本で微妙な女性心理を学んでおきましょう。
さて、ポールとシモンが音楽会で聴いたブラームスの“ちょっと悲壮な”コンチェルト。
作品の中では曲名までは書かれていないので、映画ではどうなんだろうと思って調べてみたら、『さよならをもう一度』という名で映画化されているんですね。
イングリッド・バーグマンはどんな横顔を見せてくれたのかな。
映画で使用されたのは協奏曲ではなくて、交響曲第3番の第3楽章。
どこか物憂げでロマンティックな旋律がぴったり・・・なのですが、ここは原作どおりコンチェルトを。
- アーティスト: パールマン(イツァーク), シカゴ交響楽団, ジュリーニ(カルロ・マリア), ブラームス
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2004/06/23
- メディア: CD
“ちょっと悲壮”といえなくもないヴァイオリン協奏曲第1楽章。
イツァーク・パールマンのヴァイオリン、カルロ・マリア・ジュリーニ シカゴ交響楽団の一枚です。
いかにもブラームスといった感じのシンフォニックな楽章ですが、時おり顔を覗かせる甘美な旋律はまるで花が開くよう。
パールマンは、まろやかで美しいヴァイオリンの音でブラームスの想いを歌い上げています。
どこまでも優しいブラームス。
ブラームス、私は好きです。
ソフィーの選択 [本]
ぼくは夢見る者特有の鋭く明晰な洞察力で彼女が破滅する運命にあることを知った。
Sophie's Choice (Vintage Classics)
- 作者: William Styron
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2004/02/05
- メディア: ペーパーバック
1947年夏、南部出身で作家志望のスティンゴは、ブルックリンの安下宿で一組のカップルに出会う。アウシュヴィッツを生き残ったポーランド美女ソフィーと天才的で謎めいたユダヤ人ネイサン。深く愛し合う二人だったが、二人の愛にはただならぬものが漂っていた・・・
ウィリアム・スタイロンの『ソフィーの選択』です。
ピューリッツァー賞作家スタイロンによる哀しくも美しい恋愛小説。
ポーランド人とユダヤ人のカップル、南部出身者とアウシュヴィッツの生き残り・・・etc. ストーリー設定が実に巧み。
スタイロンの発想と筆力は驚異的で、その内容にただただ圧倒されるのみです。
ずしりと重いのは、その分量だけじゃないはず。
<あとがき>によると、この小説には興味深いエピソードが。
それは、執筆途中の小説に行き詰まって数週間もの間一行も書けなかったとき、スタイロンの夢の中に学生時代に知り合ったポーランド人女性が現れたというもの。目覚めたスタイロンは執筆途中だった小説を中断し、約5年の歳月を費やしてこの作品を書き上げました。
ちょっと出来すぎ?
でも、そういうのって信じた方が楽しいですよね。
映画化もされていて、メリル・ストリープがソフィー役を熱演して・・・いるらしいです。
まだ観てないのですが、きっと彼女にぴったりでしょう。
でも、映画という枠に収めることは難しいんじゃないかな。
この作品を読むとき、文字の持つ力に驚かされるに違いありません。
もちろん、あなた自身の持つ想像力にも。
ソフィーとネイサンにとって特別な意味を持つ曲 ―
J.S.バッハのカンタータ第147番よりコラール<主よ、人の望みの喜びよ>です。
藤森亮一のチェロ、カール=アンドレアス・コリーのピアノ。
ピアノの旋律が、天上へ続く階段のよう。
その響きは平和でもあり、哀しくもあり・・・
あなたの想像したラストシーンにかければ、きっと映画以上のものになることでしょう。
スキップ [本]
時の無法な足し算の代わりに、どれほど容赦のない引き算が行われたのか。
高校2年生の真理子は、目が覚めると見知らぬ部屋で寝ていた。そこに帰宅した様子の女子高生に今自分がどこにいるのか尋ねてみる。返ってきた答えは、「ふざけてるの? ―お母さん」
北村薫さんの『スキップ』です。
17 → → → 42
ある日突然、42歳の自分へ“スキップ”してしまった17歳の女子高生の物語。
失われた25年もの歳月。
レコードはCDに。テレビのガチャガチャはピコピコに。
そして、高校生だった女の子は、高校生の娘を持つ母親に ―
ファンタジーでもSFでもない、青春小説。
前向きで清潔な主人公の姿に胸を打たれます。
どおりで高校生活が生き生きと描かれているわけですね。
そして、最後に待っているのは・・・
ラストシーン、確かめる価値アリですよ。
夏の庭 [本]
「あれは絶対、オレたちへの宣戦布告だ」
人の死に興味を持った三人の少年。人の死ぬ瞬間を見るためにひとり暮らしのおじいさんを観察することに。しかし、おじいさんはなかなか死にそうにない・・・
湯本香樹実さんの『夏の庭 ―The Friends』です。
瑞々しい文章で綴られる少年たちとおじいさんの心の交流。
湯本香樹実版“スタンド・バイ・ミー”。
テレビの中の甲子園、早朝のラジオ体操、プール帰りのアイス、けっして終わらない宿題・・・
読んでいるうちに、ゆったりと時間が流れていたあの頃を思い出すことでしょう。
湯本さんは東京音楽大学の作曲科を卒業。
書いているとき、頭の中でどんなメロディが鳴っていたのかな。
この作品、10カ国以上で刊行され、たくさんの賞を受賞し、また映画にもなっています。
夏の読書感想文にピッタリの一冊。
もう大人になったから書く必要ないって?
そんなアナタにこそ、必要な一冊かもしれませんよ。
ふつうがえらい [本]
佐野洋子さんの『ふつうがえらい』です。
もう、題名からしてナイスですね。
『100万回生きたねこ』で有名な佐野さんのエッセイ集。
家族の話、本の話、恋の話、学生時代の話、シュークリームの正しい食べ方・・・佐野さんの本音炸裂に思わず笑いがこぼれます。
「ハハハ!」でなくて、「ふふふ・・・」というタイプ。
でも、その「ふふふ・・・」が最後まで続くんですね。
もちろん、しみじみだってさせてくれます。
濃ゆい人生を歩んできた佐野さんのパワーに圧倒されること間違いなし!
『100万回生きたねこ』を描いた人は、こういう人だったのですねぇ。
納得。
『100万回生きたねこ』で涙した方、今度はこのエッセイで笑ってみてはいかが?
見た目がボンヤリしてても、恋の駆け引きが上手くなくても、頭の回転が各駅停車でも、シュークリーム食べるたびに口のまわりにクリームつけちゃっても・・・すべて愛しい気にさせてくれます。
それが私という人間なんだから。
(あ、でも努力はしないとね♪)
読むたびにちょっぴり元気になれるこの一冊、きっと愛読書になりますよ。
生かされて。 [本]
イマキュレー・イリバギザさん。
心もからだも輝いて美しいという意味を持つその名のとおりに美しい一人の女性が今回の主人公です。(『CBSドキュメント』 TBS)
1994年に起きたルワンダの大量虐殺。
多数派民族であるフツ族が少数派民族のツチ族を大量虐殺したおぞましい事件。
100日間で100万人以上の命が犠牲になったとも言われています。
それまで良き隣人であり、友人であったはずの人たち。
そんな人たちがある日を境に鉈や槍を手にして殺戮を始めたのです。
それは、まさに“皆殺し”と呼ぶのに相応しいものでした。
最終的には国内にいたツチ族の4分の3が殺されたそうです。
殺戮とレイプという悪夢の嵐が吹き荒れ始めたころ、イマキュレーさんは知り合いのフツ族の牧師に匿われます。
そこは幅90cm、奥行き120cm ほどのベッドルームのトイレ。
整理箪笥の裏に隠された、身動きも出来ないそのスペースで6人の女性が91日間過ごしました(途中で2人が加わり、8人に)。
そんな地獄を生き抜いたイマキュレーさんが書いた本。
『生かされて。』です。(原題 『LEFT TO TELL』)
今まで遠くの国のニュースだった事実。
この本を読み、イマキュレーさんの体験をたどるとき、それが現実に起きた生々しい事実として感じることができるでしょう。
虐殺に怯える日々をどうやって彼女は乗り切ったのか ―
生き残ったとき、どうやって憎しみの連鎖から逃れ、もう一度生き直すことができたのか ―
運が良かったという言葉で片付けるには、あまりにも重い。
悲惨、残酷などという言葉では言い尽くせない内容で、映像を見なくて済むことに感謝したいほどですが、読み終えた後、生きる勇気をもらえたと感じることでしょう。
「きっといつか誰かがこれを読んで、何が起こったのかを知るわ。あなたは、私と同じようにそれを伝えるために生かされたのよ」
まずは、知ることから始めてみてください。
遅すぎるということは、決してないのですから。
(ルワンダで起こったようなことが、今、スーダンのダルフールで起きているそうです。世界はこの現実に対して、どのような答えを用意するのか。早い解決を祈るばかりです)
いちご同盟 [本]
「よく見て、憶えていて。・・・あなたに見てほしかったの」
三田誠広さんの『いちご同盟』です。
生きることに前向きになれない中学三年生の良一。ある日、良一は野球部のエース・徹也に試合中の徹也の姿を撮影するよう頼まれる。言われたとおりに撮影した良一はビデオテープを持って待ち合わせの場所へ。そこは大きな病院だった ―
このブログに寄り道してくれた中学生・高校生に(もちろん、「元」でもOKです)春休みに読んでもらえたら、と思って取り上げてみました。
生きるということ、命の重み・・・それぞれこの小説の重要なテーマなのですが、淡くはかない恋の物語として心に残りました。
大人になると失われてしまう何か ―
そんなものがあるのかもしれませんね。
さて、物語の中で、いくつか登場するクラシックの名曲。
その中でも特に印象に残るのが<亡き王女のためのパヴァーヌ>です。
遠い日を思うかのような哀愁を帯びた旋律が印象的な一曲です。
モニク・アースのピアノは奇を衒うといったことはありません。
美しい音で、素直に丁寧にラヴェルの世界を描いています。
曲が終わった後の静けさまで楽しみたいですね。
物語の世界を思い浮かべながら聴けば、感動がまたひとつ増えますよ。
私と小鳥と鈴と [本]
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速くは走れない。
『金子みすゞ童謡集』です。
テレビを見てたら、画面に現れた「私と小鳥と鈴と」というタイトル。(『みんなのうた』 NHK教育)
そう、それは金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」に曲をつけたものでした。
26歳という若さで自らの命を絶った、童謡詩人 金子みすゞ。
日常の何気ない出来事に向けられた彼女のやさしい眼差し。
その眼差しは、詩という形になって、私たちにふだん忘れていること、見逃していることがたくさんあるんだよ、と教えてくれます。
彼女の詩に素敵な解説・エッセイの付いたやさしさに満ち満ちた一冊です。
そんなとき、金子みすゞの詩を読むと心が軽くなって、やさしい気持ちになれますよ。
歌を歌っていたのは、新垣勉さん。
あたたかい歌声、あなたの心にも届きますように。