雪とパイナップル [本]
地球は宇宙のなかで、一番ステキな星なんだって。
チェルノブイリ。
1986年4月26日、それまで知られていなかったこの街の名が歴史にその名を刻みました。
悲しい歴史に。
壊れた柱時計の針が永久に指し示す1時23分。
チェルノブイリ原子力発電所4号炉から漏れた放射能は、ヒロシマに落とされた原爆の500発分にも相当するといわれています。
死の灰はウクライナの国境を越え、ベラルーシへ。
その日、その時間、たまたま風が北に向かって吹いていたというだけの理由で。
鎌田さんは、ベラルーシの子どもたちを救うために立ち上がった日本の医療チームの一人です。
以前、鎌田さんが『日曜喫茶室』(NHK-FM)という番組に出演されていて、そのおかげでこの本を知ることができました。
自分ひとりで世界を変えるような大きなことはできないかもしれないけど、誰かのために小さなことならできるかもしれない ― そう思わせてくれます。
唐仁原教久さんの静かな挿絵も手伝って、心にそっと残るやさしい物語です。
太陽の子 [本]
涙が品切れになったら幸福になる、そんなんやったらええのにな
神戸にある小さな琉球料理屋≪てだのふあ・おきなわ亭≫の一人娘ふうちゃんは六年生。最近、おとうさんの目から少しずつ光が消えていく。原因は何なんだろう・・・
灰谷健次郎さんの『太陽の子』です。
「やさしさ」と「思いやり」に満ち満ちた作品。
やさしくて素敵な言葉がいっぱい詰まっています。
ふうちゃんたちと笑ったり泣いたりしているうちに、灰谷さんのメッセージがじんわりと心に染み入って、温かい気持ちになっている自分に気づくでしょう。
教育とか平和とか、難しい問題だけれど、考えるヒントみたいなものを易しい文章でプレゼントしてくれた灰谷さんにお礼を言いたいですね。
ふうちゃんの最後のセリフ、きっとあなたの心に一生残りますよ。
くっすん大黒 [本]
今日という今日はもう勘弁ならぬ。捨てよう、大黒を。自分は大黒を捨ててこます。
町田康さんの『くっすん大黒』です。
「だいこく」です。「オオグロ」ではありません。
三年前に仕事を辞めて以来、酒を飲んでぶらぶらしていた男が、部屋にある大黒様を捨てようと決心するが・・・
いやあ、すごいですね。
町田さんは以前、パンクバンドをやっていたそうなんですが、本の内容も相当パンクです(笑)。
笑えるけど、どこかテツガク的。
ちなみに、第19回野間文芸新人賞、第7回ドゥマゴ文学賞を受賞しています。
併録された『河原のアパラ』も抱腹絶倒もの。
立ち食いうどん店で起きたある事件をきっかけに逃亡生活をするはめになった男が、友人の請け負った骨壷の運搬を手伝うことに・・・
目まぐるしい展開にゲラゲラ笑っているうちに、町田ワールドに引きずり込まれていきます。
映像化したら、面白い作品になりそう。
主演は・・・なんて考えるのも楽しいですね。
読書の秋だからといって、ムズカシイ本ばかり読んでいないで、たまにはリラックスしましょう。
子どもにつたえる日本国憲法 [本]
いまでは信じられないことですが、昭和二〇(一九四五)年の日本人男性の平均寿命は、たしか二三・九歳でした。
11月3日。
もう一つの憲法記念日。
そう、11月3日は、日本国憲法が公布された日なんですね(1946年)。
そこで・・・
井上ひさしさんの『子どもにつたえる日本国憲法』です。
日本国憲法の“こころ”を井上ひさし流の解釈でやさしく伝えてくれます。
いわさきちひろさんの可愛らしい挿絵と「子どもにつたえる」という題名のため、子ども向けかと思われそうですが、そうではありません。かつて子どもであった大人たちへのメッセージです。
というのも、日本国憲法(特に前文と第九条)というのは、この世界の現実を知って初めて衝撃的であり、また感動的であると思うのです。(衝撃を受け、感動した子どもの皆さん、ごめんなさい)
世界中が平和になんてなりゃしない、日本国憲法なんてメルヘンだよ、と言う人もいるかもしれないけど、こんな世界だからこそ、日本国憲法の存在意義があるとも言えるでしょう。
日本国憲法なんて社会の教科書の後ろにくっついているだけで、ほとんど読んだ経験なんてないという方も多いと思いますが、憲法は国の最高規範、一度はゆっくり読んでみる価値アリですよ。
「個人の尊重とは、この世に生まれたひとりひとりが自分であることを尊んで、自分が自分でなくなることをおそれること」
こんなことが書いてあるなんて素敵ですよね。
読んでいて涙が出そうになりました。(ほんとは出たかも)
理想と現実のギャップに思い悩みながらも、理想に半分目をつぶり現実の道を歩んできた日本。
今一度、立ち止まって考えてみるのも必要なのかもしれません。
(「立ち止まっている暇なんて、ねぇよ!」という声も聞こえてきそうですが・・・)
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげて
この崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
メルヘンの国・・・悪くないですね(笑)。
東山魁夷への旅 [本]
芸術の秋とはいうけれど、美術館まで足を運ぶのはちょっと・・・というときもありますよね。
そんなとき、こんな一冊はいかがでしょう。
東山魁夷画伯の作品を鑑賞しながら、本の中で画伯と一緒に世界中を旅することができます。
日本画にはあまり馴染みがないという方もすんなり絵の世界に入り込めるでしょう。
画伯が添えた詩文を読みつつ、ゆったりと絵を眺めていると気持ちもやさしくなれますよ。
どうやら、東山魁夷画伯はモーツァルトがお好きだったようで、『緑響く』(1982)(表紙の絵です。小さいのが残念!)には、以下のようなエピソードが。
一頭の白い馬が緑の樹々に覆われた山裾の池畔に現れ、画面を右から左へと歩いて消え去った ― そんな空想が私の心の中に浮かびました。私はその時、なんとなくモーツァルトのピアノ協奏曲の第二楽章の旋律が響いているのを感じました。
東山魁夷とモーツァルト。
二つの才能が響き合ったとき、一つの傑作が生まれたのですね。
となると、気になってくるのはそのピアノ協奏曲です。
さて、そのピアノ協奏曲とは・・・
モーツァルトのピアノ協奏曲第23番です。
27あるモーツァルトのピアノ協奏曲の中でも最も人気がある曲の一つでしょう。
特に、第2楽章は人生そのものを見透かしてしまったかのようなピアノの旋律と祈るかのようなオーケストラが胸に迫ってきて、聴く者の心を捕らえて放しません。
今回選んだのは、アシュケナージがフィルハーモニア管弦楽団を弾き振りした一枚。
アシュケナージの柔らかな音による素直なピアノ。
聴いているとき見えてくるのは、モーツァルトの心の裡です。
音楽を聴きながら、絵を鑑賞する ― たまには、そんな時間もいいものですね。
錦繍 [本]
前略
蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。
そんな印象的な一文で始まる、宮本輝さんの『錦繍』です。
往復書簡の形式で綴られる一組の男女の過去と現在。過去に向き合ううち、二人は将来へと踏み出してゆく ―
愛と再生のロマン。
ただいま恋愛中という方にも、ひと山越えたという方にも、おすすめの一冊。
決して幸福な物語とはいえないけれど、読んだ後、不思議と前向きな気持ちになれます。
久しぶりにあの人に手紙でも書いてみようかな・・・なんて。
さて、物語の中に登場するモーツァルトの交響曲第39番。
- アーティスト: ブロムシュテット(ヘルベルト), ドレスデン・シュターツカペレ, モーツァルト
- 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
- 発売日: 2003/03/26
- メディア: CD
陰影に富むドレスデン・シュターツカペレの音が奏でる美しく儚いモーツァルト。
ここで聴くことのできるモーツァルトは人を楽しませるために曲を書いていたモーツァルトではありません。人生の悲しみを知ったモーツァルトです。
物語に出てくる交響曲第39番はこんな感じじゃないかな、と思いました。
宮本さんに、どのレコードを聴いてたのか聞いてみたいですね。
夜のピクニック [本]
第2回本屋大賞受賞作、恩田陸さんの『夜のピクニック』です。
夜を徹して80キロを歩き通すという“歩行祭”を舞台にした青春小説。
主人公の貴子は一つの賭けを胸に秘め、高校最後の歩行祭に参加するが・・・
勉強も部活もイマイチ、恋愛にいたっては完封負けという不遇な(笑)高校生活を送った者にとっては、胸にチクッとくるストーリー。
ちょっぴり甘酸っぱい気持ちになりました。
今振り返ると、高校生の頃って、やたら物事の“意味”を探っていたような気がしますが、特別な意味なんて必要ないんでしょうね。
ま、そんなこと言っても、実際に高校生のときに80キロもの歩行祭なんてものがあったなら、断固拒否してたでしょうけれど。「80という数字に何か意味はあるんですか?せめて40キロにして!」なんて言って・・・40という数字に意味はないのに(笑)。
その気になって夜道を歩くときは、くれぐれもご注意を!
坊ちゃん [本]
はたまた、
そして、ご存知、
内容は、松山に赴任した新米教師 坊ちゃんのドタバタ劇。
“赤シャツ”や“うらなり”などの個性豊かな登場人物は、まさに昼ドラに最適ですね。
となると、脚本は・・・なんて(笑)。
さみしさの周波数 [本]
<未来予報><手を握る泥棒の物語><フィルムの中の少女><失はれた物語>の四編からなる短編集。
映画研究会の部室で見つけた8ミリフィルムを映写機にかけるたびにスクリーンの中の少女が徐々に振り向くという<フィルムの中の少女>、植物状態に陥った夫が妻へ最後の愛を伝える決心をする<失はれた物語>が心に残りました。
発想がうまいですね。
羽住都さんの素敵なイラストも手伝って、読んでいると頭の中に画が浮かびます。
どの作品も映像化しやすいんじゃないでしょうか。
“あとがき”を読むのも忘れずに。
角川スニーカー文庫ですが、ふだんは革靴 ・ハイヒールという方にもオススメです。
きっと、あなたの周波帯に合う作品に出会うことができるでしょう。
ドナウよ、静かに流れよ [本]
大崎善生さんの『ドナウよ、静かに流れよ』です。
<邦人男女、ドナウで心中 33歳指揮者と19歳女子大生 ウィーン>
そんな新聞記事に出会った著者が二人の足跡を追ったノンフィクション。
なぜ、19歳の少女が異国で14歳年上の男と心中しなければならなかったのか?
悲劇を誰かが止めることはできなかったのか?
著者によって明らかにされる悲しい事実。
そして、最後に登場する一枚の写真。
その写真によって、この物語が現実のものであったと認識させられ、胸がしめつけられる。
読み終わった後、なんだか救われない気持ちになりました。
ドナウよ、静かに流れよ。
優しく、静かに。
そして、果てしなく。
Rest In Peace.