The Water Is Wide [音楽]
チャールス・ロイドの『ザ・ウォーター・イズ・ワイド』です。
人里離れた山中で隠遁生活を送っていたこともあるチャールス・ロイド。
そんな情報も手伝ってか、チャールス・ロイドの円熟したテナーは悟りの境地といえるほど。何の気負いも感じられません。
ゆったりと流れる大河のごとく、静かに聴く者を包み込んでゆきます。
まさに幽玄の美。
そして、ピアノはブラッド・メルドー。
いつもながらの詩情溢れるピアノを披露しています。
ECMの音で聴くブラッド・メルドーのピアノもまた良いものですね。
アバークロンビーの浮遊感あるギターも絶品です。
バラード集ですが、心地よい緊張感もあって退屈することはないでしょう。
ぜひ、2曲目<ザ・ウォーター・イズ・ワイド>を試聴してみてください。
“The water is wide, I can not cross over,
neither have I wings to fly,
Give me a boat that can carry two,
and I will row, my love and I.”
たゆたう音の流れに耳も心も委ねてみては?
きっと、あなたの心に溜まったものを流してくれますよ。
【瞑想気分ですっきり度】 ★★★
Sunday at the Village Vanguard [音楽]
1961年6月25日。
ジャズ史上、燦然と輝く“奇蹟の日曜日”。
その奇蹟の瞬間は幸運にもライヴ・レコーディングされ、2枚のアルバムとなって我々の聴くところとなりました。
今回紹介するのは、そのうちの一枚『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』です。
ビル・エヴァンス(p)、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)
ピアノ主体の二等辺三角形から三者同格の正三角形へとピアノ・トリオのスタイルを発展させた三人は、このライヴでピアノ・トリオの究極の理想形を見せてくれています。
一卵性双生児である名盤『ワルツ・フォー・デビイ』に人気の面では一歩譲るものの、神がかっていることには変わりなし。スコット・ラファロのオリジナル曲も収録されており、歌心溢れるベースとピアノの応酬を満喫することができるでしょう。
そして、11日後 ―
スコット・ラファロは両親の住むニューヨーク北部の街へと向かう途中の街灯もない田舎道で車の運転を誤り、その27年の人生に幕を閉じました。
理想的なトリオの終焉は、ビル・エヴァンスの中の何かをも殺してしまったのでしょう。
以降、ビル・エヴァンスは失われたピースを求め続けることになります。
(その結果、エヴァンス・トリオからは名ベーシストが幾人か輩出されることになるのですが)。
若くしてこの理想的なトリオを得たことは、ビル・エヴァンスにとって最大の幸福であったと同時に最大の不幸であったかもしれない ―
センチメンタルにすぎる?
そうなんでしょうね。
でも、そんなトリオだったのです。
【日曜日は2本立て気分度】 ★★★
バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番第5楽章 [音楽]
私がその曲に出会ったのは音楽室でもレコード屋でもなく、小さな映画館でした。
映画のタイトルは 『無伴奏「シャコンヌ」』。
ヴァイオリニストのアルマンはソリストの代役として華々しいデビューを飾ったが、自らの芸術を追求するために表舞台から姿を消す。10年後復帰しようとしたものの、もはや音楽界にアルマンの居場所はなく、彼はメトロの地下道で自分の音楽を奏でるようになる ―
そんなストーリーのフランス映画です。
ラストの15分。
アルマンが地下水路を進む小舟に乗って≪シャコンヌ≫を弾き切るそのシーンは、まさにこの15分間のためにこの映画を撮ったのだと思わせるものでした。
暗闇の中、全身でバッハの音楽を感じたのを覚えています。
“シャコンヌ”という名の小宇宙。
そこに見えるのは絶望、希望、そしてそれを超えたもの ―
聴くたびに胸がしめつけられ、また同時に安らぎを覚えます。
映画で実際にヴァイオリンを弾いていたのはギドン・クレーメルでしたが、彼の厳しいヴァイオリンを聴くのはそれなりの心の準備が必要なので、今回はこちらの一枚を選んでみました。
ヒラリー・ハーン17歳のデビュー盤。
彼女の伸びやかで丁寧なヴァイオリンは、純粋にバッハが作り上げた音楽の素晴らしさを伝えてくれています。
ヴァイオリンの音色も明るく美しい。
「どれひとつとしてバッハでは誤魔化しがききません。逆に全部をうまくこなせれば、この上なくすばらしい音楽が歌い始めます。今度の録音に、そんなバッハの音楽に対する私の愛が少しでも多く表れていればうれしいと思います」(ヒラリー・ハーン)
そんなコメントどおり、彼女のバッハへ愛が感じられる一枚です。
「人生は困難の連続だけれど、とても豊かなはず」(ジャン・マルク=ルイサダ)
きっと、そうなんでしょうね。
映画もバッハの音楽もそう教えてくれています。
【秋はイロイロ見つめる気分度】 ★★★
Blossom Dearie [音楽]
- アーティスト: ブロッサム・ディアリー, ハーブ・エリス, ケニー・バレル, レイ・ブラウン, ジョー・ジョーンズ, エド・シグペン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/06/21
- メディア: CD
「本格的なジャズはちょっと・・・でも、ジャジーな気分は味わいたい」という方へ。
ブロッサム・ディアリーの『ブロッサム・ディアリー』です。
キュートな歌声のブロッサム・ディアリーが強力なバック陣を得て、可憐にスウィング。
スタンダードをフランス語で歌ったりと聴きどころ満載なのですが、中でも<ナウ・アット・ラスト>が絶品。
失った恋を歌ったこの曲、ファイスト(i-pod nano のCMで<1234>が流れてましたね)もカヴァーしているので聴いたことがある方もいるかもしれません。
人はどうして失ってはじめて気づくのだろう・・・
けっして歌唱力で勝負するタイプではないブロッサム・ディアリーの丁寧な歌が胸に迫ります。
スタート・ボタンを押せば、50年代にタイムスリップ。
この機会にお父さん、お母さん(そのまたお父さん、お母さん)の青春時代を思い浮かべてみてはいかが?
温もりあるサウンドは、これからの季節にもぴったりですよ。
【中央線沿線カフェ気分度】 ★★★
ビゼー&フォーレ ピアノ作品集 [音楽]
ビゼー&フォーレのピアノ作品集。
ピアノは鍵盤の魔術師、ジャン=マルク・ルイサダです。
ビゼーの≪ラインの歌≫は6つの曲から成る小品。
ビゼー自身によって“Lieder sans paroles”(Songs without words)と副題をつけられたその作品は、まさに言葉のない歌です。
どこか懐かしくてやさしいメロディとルイサダのやわらかなタッチ。
聴く度に、あなたの心を酔わせてくれることでしょう。
そして、フォーレのノクターン。
(e-g-g さんのおかげで、お手頃プライスでゲットできました)
フォーレが後年聴覚を失っても生涯に渡って作り続けたノクターン。
翳を帯びた繊細なメロディはドラマというより、もっとパーソナルなもの。
ルイサダは透明な美しいピアノでフォーレの心の裡を見せてくれます。
長く味わいたい作品ですね。
*
輸入盤ではビゼーのノクターンが収録されているのですが、これがまたため息モノ。
7分16秒間の夢幻の世界。
ルイサダの右手の美しさといったら!
ショパンのピアノ協奏曲第1番がまだなら、輸入盤もオススメです。
*
昼間はビゼー、夜はフォーレ。
フランスの音、日本の秋にもけっこう合いますよ。
【魔法にかかる確率100%度】 ★★★
the ART of the TRIO [音楽]
If I expected love when first we kissed
(初めての口づけで、愛を期待したとしたら)
Blame it on my youth
(それは私の若さのせい)
If only just for you I did exist
(あなたのためだけに生きたとしたら)
Blame it on my youth
(それは私の若さのせい)
こんな歌詞で始まる<ブレイム・イット・オン・マイ・ユース>。
初々しい恋心を綴ったエドワード・ヘイマンの歌詞がなんとも素敵。
恋したときの気持ちは世界どこでも変わらないようですね。
でも、最後はちょっと切なくて・・・
If I cried a little bit when first I learned the truth
(現実というものを知って、少し涙を流したとしても)
Don't blame it on my heart
(私の恋心を責めないで欲しい)
Blame it on my youth
(すべては私の若さのせいなのだから)
こんな結末も世界共通?
やっかいなのは若さなのか、それとも恋なのか・・・はて。
さて、そんな<ブレイム・イット・オン・マイ・ユース>で幕を開ける、このアルバム。
ブラッド・メルドーの『アート・オブ・ザ・トリオ vol.1』です。
新世紀のカリスマ、ブラッド・メルドー。
彼の登場は、もはややり尽くされた感もあるピアノ・トリオというフォーマットに新たな可能性を感じさせるものでした。
驚異のテクニックと詩情溢れる繊細なタッチで描く音世界。
このアルバムでも、限りなくロマンティックな<ブレイム・イット・オン・マイ・ユース>を披露しています。
これを聴けば、彼が“鍵盤の詩人”と呼ばれる理由が分かるでしょう。
そのアルバム・タイトルに偽りなし、です。
素敵な詩、書いてみたいものですね。
【秋は詩人の気分度】 ★★★
ブラームス 交響曲第3番 [音楽]
- アーティスト: ハーディング(ダニエル), ドイツ・カンマー・フィルハーモニー・ブレーメン, ブラームス
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2001/10/24
- メディア: CD
ブラームスの交響曲第3番。
ブラームスの4つの交響曲にあって、最もコンパクトな作品(演奏時間の点で)ながら、内省的な曲想に美しい旋律というブラームスらしさでは他の3つにも引けを取らない傑作です。
その第3楽章が映画『さよならをもう一度』で使われ、そのロマンティックなメロディが有名になりました。
今回紹介するのは、ダニエル・ハーディング指揮、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンの一枚です。
若きカリスマ、ダニエル・ハーディング。
恵まれた才能の持ち主は運をも味方につけて、わずか18歳でデビュー。この録音もわずか26歳当時のものです。
そのルックスに似合わず(?)、大胆でエネルギッシュな指揮ぶり。
ドイツ・カンマーフィル・ブレーメンの明るい響きと相俟って、目の前に現れるのはキラキラとした若々しいブラームス。
まるでデフォルメされているかのようなメリハリの効いたブラームスは、古式ゆかしいブラームスに馴染んだ耳には新鮮に響くことでしょう。特に終楽章での迫力あるドライヴ感は爽快のひと言。
ハーディングが額に汗を浮かべながら指揮している姿が目に浮かびますね。
ちなみに、このハーディング、あのイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドFCの熱狂的なファンで、貴重なリフティング姿(!)も披露するほど。
得点の瞬間、ガッツ・ポーズするハーディング・・・けっこう様になりますね(笑)。
【ファイン・ゴール!気分度】 ★★★
ショパン ピアノ協奏曲第1番 [音楽]
ショパン:ピアノ協奏曲第1番&ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲
- アーティスト: ルイサダ(ジャン=マルク), ターリヒ四重奏団, ベルリオーズ(ベンジャミン), ショパン, ドヴォルザーク
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 1999/02/03
- メディア: CD
ショパンのピアノ協奏曲第1番。
革命を求める声が高まりつつあったワルシャワを離れる決意をしたショパンが告別演奏会で披露したコンチェルト。
ショパンのポーランドでの青春時代を締めくくる傑作です。
今回紹介するのは、ジャン=マルク・ルイサダのピアノ、ターリッヒ四重奏団&ベンジャミン・ベルリオーズの一枚。
そう、協奏曲の室内楽版(ピアノ六重奏)なんですね。
当然、オーケストラに比べて音の数は少なくなるわけなんですが、その分ストレートにショパンの思いが伝わってきます。
祖国を一人で離れる切ない思い、実ることのなかった初恋 ―
ショパンの曲はいつだってドラマ。
ドラマを盛り上げるのは、ターリッヒ四重奏団&ベンジャミン・ベルリオーズ。
伸びやかなアンサンブルが見事で、切ない旋律も癒し効果大。アルファ波たっぷりです。
もちろん、主役のルイサダも素晴らしい。
美しいピアノの音に乗せて情感たっぷりにショパンの思いを歌い上げています。
のすけの母さん、coco さんにもお墨付きを頂いた一枚。
レコード屋さんで見つけたら、安心してレジまで持っていってもらっていいですよ。
【気分はポイント2倍♪度】 ★★★
Voyage [音楽]
アン・サリーの『ヴォヤージュ』です。
和み系ヴォイスのアン・サリー。
“NHKハート展”のテーマ曲になった<のびろのびろだいすきな木>が『みんなのうた』(NHK)の7月のうたになっているので、知らず知らずのうちに彼女の声を耳にしていた、なんて方もいるかもしれませんね。
今回紹介するのは彼女のデビュー・アルバム。
1曲目の<小舟>からリラックス・モード全開。
夏のポルトガル語って、どうしてこんなに心地よいのかな。
センスの良いバックに支えられて、ジョニ・ミッチェルの<青春の光と影>、チャップリンの<スマイル>、ヘンリー・マンシーニの<酒とバラの日々>他、一度は耳にしたことがあるような名曲をアン・サリー流に料理。あっさり味に仕上げているので耳にもたれるといったことはないでしょう。
これからの季節にCDかければ、あら不思議!気分はすっかり28℃。
ドライブの、読書の、ゴロゴロ昼寝の、お伴にいかが?
何気ない日常をまあるく演出してくれますよ。
【地球にもココロにもやさしい度】 ★★★
COME AWAY WITH ME [音楽]
ノラ・ジョーンズの『COME AWAY WITH ME』です。(歌声を聞きながら、どうぞ)
このブログで取り上げるアルバムにしては、ちょっと雰囲気違う?
ま、レーベルは BLUE NOTE だからいいでしょう。
実際、日本でいち早く“ノラ・ジョーンズ”という名を心に刻んだのはジャズ・ファンだったんじゃないかな。レコード屋さんのジャズのコーナーで日本盤が発売される前に輸入盤が話題になっていたのを思い出します。
その後の活躍ぶりは、ご存じの通り。
2003年の第45回グラミー賞を総なめにして、全世界で2000万枚以上売れて、全米で143週連続第1位を獲得して・・・なんて数字を並べられてもピンときませんね。
テレビのドラマでも主題曲として使われていたので、その歌声を耳にした方も多いはず。
最新アルバムのCMも最近流れています。
なんと言っても、声が魅力的。
深みのある声は、どこか浮遊感もあって、静かに聴く者の心に染み込みます。
発売されたのが春だったこともあって、この季節にノラの歌声を聴くとあの頃の匂いまでをも思い出して、ちょっぴりセンチメンタルになっちゃったりして・・・。
きっと、聴いた人の分だけストーリーがあるんでしょう。
そんなアルバムです。
まだノラを聴いたことがないというあなた、そんなあなたはラッキーな人なのかもしれません。
あなたには感動的な出会いが、まだ残されているのですから。
【春の夜はセンチメンタル度】 ★★★